トール提訴を受けて、関西テレビではニュース報道がされ、また毎日新聞も報道しています。
6月14日の提訴以降も取材を続けてくれた産経新聞は、産経WESTにて残業代のカラクリに着目して報道しています。なぜ、今回トールの労働者が労評で分会結成に至ったのか、残業代の仕組みについて分かりやすくまとまっています。
「残業代ゼロ」物流会社員が提訴 大阪地裁 (毎日新聞 2016/6/14)
歩合給から時間外手当が差し引かれ、残業代が実質的にゼロになる賃金規則は労働基準法違反に当たるとして、関東や関西に拠点を置く物流会社「トールエクスプレスジャパン」(本社・大阪市淀川区)の男性社員9人が14日、未払い賃金など総額約2200万円の支払いを会社側に求める訴えを大阪地裁に起こした。
9人は広島支店で勤務する30〜50代のトラック運転手ら。訴状によると、集荷や配送を担当する「集配職」に支給される「能率手当」は、歩合給から時間外手当と同額分が差し引かれる仕組み。「この仕組みを定めた賃金規則は残業に割増賃金の支払いを義務付ける労基法に違反する」と主張している。
代理人の指宿昭一弁護士(第二東京弁護士会)によると、会社側が今月9日の団体交渉で、「給料は社独自の指標で計算しており、時間外手当は払っている」と回答したため提訴した。タクシーや物流業界に同様の賃金体系が多く採用されているという。
いくら残業しても給料が変わらない。物流大手のトラック運転手らが「詐欺だ」と訴える賃金規則のカラクリとは…
残業しても残業しても、毎月の給料が変わらない。明細上は残業代が支給されている。それなのに、なぜ-。会社の賃金規則が実質的に「残業代ゼロ」になるカラクリになっているとして、大阪に本社がある物流大手の広島支店に勤務するトラック運転手ら9人が6月、会社に未払い分の残業代などとして計約1120万円の支払いを求める訴訟を大阪地裁に起こした。「詐欺だ!」と運転手らの怒りは収まらないが、こうした給与体系は、この業界では珍しいことではないという。
なぜ毎月同じ給料
原告となった50代男性は平成25年に入社した。毎朝午前7時半に出勤。広島市内で配送、集荷業務にあたり、午後6~9時に退社していた。
週5、6日の勤務で毎月の給料は手取り約20万円。正月やゴールデンウイークは配送先が少ないため、手取りはさらに減って18万円程度になる。家族は妻と子供が1人。暮らしは決して楽ではない。
入社して半年ほどがたったある日、同僚が愚痴るように言った。
「うちの会社は忙しい月も暇な月も、給料が変わらん」
「そういえば…」と気になって、過去の給与明細を見比べてみた。
確かに同僚の言う通りだった。毎月、異なる金額の時間外手当(残業代)が記載されているのに、どの月も支給総額にほとんど差がないのだ。
「おかしいと思ったが、細かい賃金規則も知らないし、どういう計算式になっているのかも分からなかった」
あるとき、会社の労働組合に質問してみた。
「残業してもしなくても、給料が変わらんのじゃけど」
すると、ある組合員はこう答えた。
「前からその話は出ていて、弁護士に相談したら『会社はうまいことやってるな』と言われたんじゃ」
引かれていた残業代
残業代の〝謎〟を解き明かそうと、男性は労働問題に詳しい指宿昭一弁護士(第二東京弁護士会)に改めて相談を持ちかけた。そして同社の賃金規則を検証した指宿弁護士からこう告げられた。「時間外手当が実質支払われていませんね」
訴訟で原告側の代理人となった指宿弁護士の説明によると、同社の賃金規則は以下のようになっている。
◎支給される賃金=基本給+時間外手当+能率手当+諸手当
一つ耳慣れない手当があるのにお気づきだろうか。そう能率手当だ。この手当こそが、働けど働けど運転手の暮らしが楽にならない元凶だ、と指宿弁護士は主張している。
能率手当は同社独自の呼称といい、どうしてこう名付けられたのかは定かでない。問題はその計算の仕方だという。
原告側弁護団によると、能率手当のベースとなっているのは「賃金対象額」と呼ばれる給与。走行距離や集荷・配達重量、立ち寄り先などの実績を足し合わせて算出され、仕事量に比例する歩合給に相当するものだとみられる。
そして問題の能率手当とは、この賃金対象額から時間外手当を差し引いたものだ、というのだ。時間外勤務が多いのは能率が悪いからだ、だからその分を差し引くのだと、そんな意味での「能率手当」なのではないかという気もしてくる。
ここでもう一度、同社の賃金体系を振り返ってほしい。
◎支給賃金=基本給+時間外手当+能率手当+諸手当
この式をもう一歩進めると、
◎支給賃金=基本給+時間外手当+(賃金対象額-時間外手当)+諸手当
となる。つまり、時間外手当がカウントされない計算式になっているというのが原告側の主張だ。
業界では普通?
「自分の給料から自分の残業代を払っているようなものだ」と原告の男性は話す。
時間外手当が実質ゼロでも、多く働いた分だけ歩合給が上がればまだましだ。しかし、同社の「賃金対象額」は毎月1万円程度の変動しかなく、他に歩合にあたるような賃金はなかった。
男性は仲間と労組を結成し、団体交渉で会社に未払い賃金の支払いを要求した。だが会社側は「賃金規則は当社独自の指標」「時間外手当はすでに支給している」と応じなかったという。原告らは「詐欺のような規則で、運転手を長時間タダ同然で使っている」と反発、訴訟に踏み切った。
そもそも、労働基準法は時間外労働や休日出勤、深夜労働に対して割増賃金を支払うことを定めている。同社の賃金規則は明らかに法令に触れるように思えるが、実は同様の賃金形態は運輸・交通業界では珍しいことではないという。
割れる司法判断
なぜか。「労基法には時間外手当を支払えとは書いてあるが、同額を差し引くのが違法か否かまでは書いていない」と指宿弁護士は指摘する。
むろん、労働者の側からすれば「書いてなくても当然おかしいだろう」と思うが、この点に関する司法判断は割れている。
指宿弁護士によると、東京の大手タクシー会社の運転手らが起こした訴訟で、会社側は「残業代を支払うことは、時間外労働の助長につながる」と独自の主張を展開したが、27年の東京地裁判決は「長時間労働を抑制したいのならば、時間外労働を一定範囲で禁止すれば足りる」と判断。歩合給の計算にあたって残業代を実質的に控除する同社の賃金規則は「労基法の趣旨に反し無効だ」と認定した。
一方で、同じタクシー会社の別の運転手らが起こした訴訟では、東京地裁の別の裁判長が今年4月、「歩合給の算出方法を規制する法令はなく当事者の自由」として原告側の請求を退けている。
運輸・交通業界では歩合給を採用する会社が少なくない。経営サイドからすれば、仕事量が増えればその分歩合給が上がるため、できれば残業代を支払いたくない。勢い、こうした賃金規則を作りがちだという。
しかし歩合給が増えるといっても、その算出方法自体が不明確なケースが少なくない。指宿弁護士は「こんな賃金制度が許されれば、日本中の企業で計算式をいじって『残業代ゼロ』にすることが可能になる」と危機感をあらわにする。
運転手らの提訴について物流大手は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。